地震の備えと言っても「何からはじめればいいのか…」「みんなはどうやってるの?」……そんな風に感じている方も多いのではないでしょうか。
「大丈夫。できることから手を付ければいいんです」と、静岡大学・防災総合センター教授の岩田孝仁さんは言います。
岩田先生は前・静岡県危機管理監として長年静岡県全域の防災力向上をけん引。住宅耐震化や家具転倒防止など地震対策の実際のところもよくご存知で、当サイトの監修もしていただいています。
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そんな岩田先生のご自宅に伺って、どんな防災アイデアを実践されているのか見せていただきました。
ご自宅があるのは静岡市駿河区。お住まいは木造2階建の一戸建です。
建築当時の様子。土地の地盤改良に加え、建物1階の柱・壁を増量。2階は極力間仕切りをなくし軽量化、建物の重心を低く抑えることで地震の揺れに強い構造になっている
リビングは日当たりのいい2階に。リビング・ダイニングにオープンキッチンがつながった、広々とした気持ちのいい空間です。
がっしりした梁の通る高い吹き抜け、リビングの一角には充実した書斎スペースもあり、とても居心地が良さそう
まず目に入ったのは大画面テレビ。
実はこのテレビ、専用金具できっちりと壁に固定された「壁掛けテレビ」なのです。(下に見えるのはテレビ台ではなく収納用キャビネット)
テレビ後ろの黒いプレートが壁掛け金具。壁掛け金具はテレビにブラケットを取り付け、ブラケットを壁に取り付けたプレートにひっかけ、テレビとプレートを固定して壁掛けにする
一般にテレビは壁掛けで固定した方が地震時の安全は高まります。
岩田先生:「金具プレートのビスは10ヵ所。どれも柱や間柱の角材がある丈夫な場所に打ち込んであるよ」
岩田先生がテレビのある壁をコンコンとたたき、近くの別の壁もたたいてみると、テレビのある壁の方が高い音がします。
編集部Oもマネしてコンコン! 確かに音が違います。
下地(木の構造用合板)が入っている壁は、たたくと硬い高い音がする。もともと重心が不安定で倒れやすい大画面テレビ。壁掛けにすれば転倒や落下の可能性はぐんと抑えられる
岩田先生:「ここの壁はテレビを掛けようと思って、壁裏に下地を仕込んでおいたからね。この下地があるから、ビスがしっかり効いて地震の揺れにも耐えられるんだ。
それに新築時に壁掛けにすると、配線を壁の中に通せるからスッキリしていいよ」
なるほど、テレビを壁掛けにすれば部屋はおしゃれでスッキリ、地震の揺れにも強くなるのですね!
キッチンにある真新しい大型冷蔵庫は、しっかりと壁に固定されています。
壁にステンレス製のアーチ形金具(通称アイプレート)を設置。1本の強度が1トン以上ある「ケブラーロープ」で金具と冷蔵庫背面上部にある取っ手をしばり、できるだけすき間を減らして固定している
岩田先生:「重量のある冷蔵庫も、運搬用の「取っ手」を使えば固定できるんだ。国産の大型冷蔵庫なら、ほぼこの取っ手は付いているからね」
重さ100kgを超える大型冷蔵庫、もしも地震で倒れて下敷きになったらとても無傷ではいられません。それに冷蔵庫が無事なら、中の食品で食べつなぐこともできます。
書斎スペースには大型の書棚が3つ。
岩田先生:「書棚はL型金具とビスで固定している。電動ドライバーがあればDIYでできるよ」
木製の書棚なら直接ネジを打ち込める。冷蔵庫よりも固定の作業はカンタン
「木造住宅はほぼ90センチ間隔で柱が入っているからね。家の設計図と見比べれば、およその柱の位置は分かりそうだね」
分かりました!家具・家電の固定は「揺れに耐えられるように、壁裏の柱のある場所に金具のビスを打つこと」がポイントなんですね。
明るいキッチンには、システムキッチンとひと続きになった食器棚があります。
置き家具タイプではなく、造り付け(壁面と一体化して設置した家具)なので転倒の心配はありませんが、扉面にはガラスが使われています。
ガラス扉・開き戸タイプの食器棚が4面。たくさんの食器やグラス類が整然と並んでいる
「ガラス面には“飛散防止フィルム”を自分で貼りました」と取材に同席していただいた奥様。
編集部Oが近づいて眺めて、手で触れても、フィルムがあるのか分からないほどの自然な仕上がりです。
割れた食器やガラス破片は大ケガのもと。飛散防止フィルムはホームセンターで探した、水で貼れる1ロール1000円位の市販品を使ったそう
奥様:「全部やって2時間くらい?それほど難しくはなかったですよ」
さらに扉の丸い取っ手には、木でできた札?のようなものが。
「これは扉ストッパー。私の自作です(笑)」と岩田先生。
扉ストッパーは地震の揺れで扉が勝手に開いて、食器が落下しないためのモノ。これはスムーズにくるん、と周って片手でワンアクションで使えるので、忙しい調理中でもわずらわしさを感じない。
扉ストッパーはS字フック等でも代用できるので、取り入れるのは比較的簡単です。ただ見た目や使い勝手がいまひとつな場合が多く、使う習慣が続きづらいのが悩みのタネに。
「使って20年以上経ちますけど、面倒に感じたことはないですね。動きが軽いからですかね?」と笑顔の奥様。
編集部スタッフOもつられて、くるん! あっ、本当に軽い!
木の扉ストッパーは木製の扉枠になじんで、見た目の違和感もありません。
確かに日々の作業がスムーズで見た目もOKなら、使う習慣も長続きしそうです。わたしたちが扉ストッパーを買うときは、この2点をチェックですね!
寝室には就寝中の揺れに備えた「寝室用ひなんセット」が用意されています。
リュックの中はクツ・軍手・ラジオ・懐中電灯など。夜間停電で真っ暗闇のなかを逃げる最低限のグッズを用意
ひとり分ずつをリュックにまとめ、ベッドサイドの目につきにくい場所に置かれていました。
廊下の納戸には、備蓄のペットボトル水がたくさん!
岩田先生:「備蓄の水は揺れが収まったあと取り出せればいいから、置き場所は納戸の奥でOKだよ」
水の備蓄はひとり1日3リットル×7日分が推奨されている。納戸にはペットボトル18本、36リットル分の備蓄が。他のペットボトルは「寝室用ひなんセット」の中等、分散して備蓄してある
玄関ホールのキャビネットの中には、「非常持ち出し袋」のリュックと備蓄食料&防災グッズが。
非常持ち出し袋の置き場所は、やはり持ち出しやすい玄関が一番だそう。家の各所に、起こり得る様々なシチュエーションを想定して準備がされている
備蓄食料は缶詰を中心に、防災グッズはヘルメットや電池など。
リュックの中には携帯トイレ、カサ、ラジオ、浄水器など役立ちそうなグッズがいろいろ。持ち出し専用の財布も入っています。
缶詰はすぐ食べられるお菓子系と食事になるおかず系を。財布の中は公衆電話を使う際必要な小銭、持ち出す余裕がなかった場合に備えて重要書類のコピーなど
岩田先生:「わが家は地震後も自宅で過ごせるよう、家の構造や備蓄を考えてある。万が一に備えてひなんの準備もしてあるけど、ひなん所に行く予定はないね」
えっ、ひなん所には行かないんですか?
「そう、ひなん所というのは、みんなが想像しているよりもずっと過酷な場所なんだ。地震があったら“ひなん所へ行く”とよく聞くけど、それよりは住み慣れた自宅にいた方がずっとラクなはずなんだよね。
倒壊の恐れがないなら自宅にいて、ひなん所は情報を集めたり、足りないモノの助けに利用すればいい。
そのためには自宅の耐震化や家具家電の転倒防止、必要な備蓄をすすめて、家の中で過ごせるように準備しておきたいよね」
長年県の防災行政の中心として活躍し、各地の大災害での現場経験も積み重ねた上で、自分ごととしても防災を実践する岩田先生。お話される言葉ひとつひとつの重みが違います
そうですね。みんな自宅で過ごせる準備に自信がなくて、つい“ひなん所へ…”となってしまうのですよね。岩田先生の話を伺っていて、日々少しずつ、自分の家でできることから始めていれば、もしもの時が来ても前を向いて進んでいけるんじゃないかな?と感じました。
岩田先生、奥様。本日はありがとうございました!
防災アイデアの実例を見て「こうすればいいんだ」「私もやってみたい!」と感じた人も多いのではないでしょうか。
ふだん防災や地震の不安について誰かと話し合う場は、なかなか持ちにくい……。私たち編集部も、そう感じています。
『助かる!ジブン防災 静岡』では、そんなあなたといっしょに防災をすすめていける場になりたい、と考えています。2年目のこれからも、ぜひご期待ください!
「やってみよう!」と思ったら。下記コラムも参考になりそうです。ぜひご覧ください!
☆冷蔵庫の転倒防止 → <編集部がやってみました! その① > 冷蔵庫の転倒防止
☆寝室用・ひなんセット → <グラッときたら。自宅編①> もしも「 夜中にグラッ」ときたら?
☆水の備え → <モノの備え①> 静岡市に住む人の“水の備え”とは
☆静岡市の「ひなん所」 → 「近くのひなん所」って、どんなとこ?